少子高齢化が進む日本ではペットは家族の一員として重要な存在となっています。ペットの喪失によって強い悲嘆が生じうることは「ペットロス」という言葉とともに知られるようになりましたが、十分な社会的理解が得られるには至っていません。日本では1996年頃からメディアに登場し広く知られるようになりましたが、学術的には英国の精神科医である keddie(1977)が、愛犬の死により病的な悲嘆を呈した3症例を報告したのが最初のようです。
ペットロスの定義とは?
ペットロスの定義としては今だに十分な検討はされておらず、ペットロスという言葉に喪失後の悲観反応まで含めることもあります。日本医師会では、ペットを失うことをペットロス、そしてペットを失ったことによる精神的・身体的不調をペットロス症候群として区別しています。
ペットの死や行方不明などによって別れに直面し、喪失によって引き起こされる悲嘆は、病理的悲嘆(pathologic grief)と呼ばれ、うつ症状や分離症状など心身の症状が現れることがあります。特に、長期間にわたって強い症状が持続し、日常生活に支障をきたす場合は、ペットロス症候群と診断されることがあります。
ペットロス症候群の原因は多岐にわたります。ペットの安楽死の決断に後悔の念を抱くこともあります。また、ペットを単なる代替可能な愛玩物として見る考え方から、周囲の人に理解されないこともあるようです。不適切な言葉に傷つくことや、悲しみに長く苦しむことが異常だと感じることも少なくありません。ペットロス症候群は、愛していたペットを失うだけでなく次のペットを飼えなくなったことによっても発症する場合があります。
近年、ペットロス症候群の原因として、飼い主がペットを伴侶動物(コンパニオンアニマル)として位置づけていることが注目されています。この概念は日本では2000年代頃から注目を集め始めましたが、ペット産業の盛んな米国では1990年代頃から精神疾患の一因として重要視されてきました。また、日本の文学作品でもペットロス症候群について触れた記述が見られることもあります。
ペットロス症候群とはどんな症状?
ペットロス症候群の症状には以下のようなものがあります。
- 強い悲しみや悔しさ:愛するペットを失った後、飼い主は非常に強い悲しみを感じることがあります。ペットが長い間家族として一緒に過ごしていた場合は、その悲しみはより深刻なものになることがあります。
- 孤独感:ペットが亡くなると、家の中での日常的な活動やペットとの関わりが減り、飼い主は孤独を感じることがあります。ペットはしばしば飼い主の心の支えであり、その存在が家庭の一体感を高めることがあります。
- 焦燥感や無力感:ペットが病気で亡くなった場合、飼い主は獣医師の治療や看護にもかかわらず、ペットを救うことができなかったという無力感や焦燥感を感じることがあります。
- 食欲の変化や睡眠障害:ペットを失った後、飼い主は食欲が減退したり、睡眠に問題が生じたりすることがあります。これは悲しみやストレスの一般的な反応です。
- 反応性の低下:ペットを失った後、飼い主は以前のように日常生活に対して興味を示さなくなることがあります。社会的な活動や趣味への参加が減少することもあります。
- ペットへの幻覚や夢:ペットを亡くした後、飼い主はまだペットと一緒にいるような幻覚や夢を見ることがあります。これはペットへの強い思いやりや絆が反映されている可能性があります。
これらの症状にはもちろん個人差はありますが、まずは感情を抑え込まずに、感じた感情をそのまま受け入れることが重要です。
ペットロス症候群の解消方法は?
ペットロス症候群を解消するためには、以下のような方法が役立つことがあります。
- 悲しみを受け入れる:ペットが亡くなったり、手放さなければならなかったりしたことに対して自分の感情を受け入れることが重要です。感情を抑えることなく、自然な流れで悲しみを感じることが大切です。
- 感情を表現する:自分の感情を友人や家族と共有することで、心の負担を軽減することができます。感情を抑え込まずに話すことで、心の中にたまってしまうストレスを和らげることができます。
- 思い出を大切にする:ペットとの素敵な思い出を思い出すことで、喪失感が軽減されることがあります。写真を見たり、ペットとの思い出話をすることで、ペットとのつながりを感じることができます。
- 自分の感情に優しく接する:自分自身に対して厳しくせず、そのときそのときの感情を肯定することが大切です。喪失に対しては時間をかけて徐々に癒やされることが多いので、無理をせずに回復を目指していきましょう。
- 新しい趣味や活動を始めてみる:ハードルは高くなってしまいますが、新しい趣味やペットを飼うこと以外の別の活動に興味を持つことで心に新しいエネルギーが生まれることがあります。新しいことに取り組むことでペットロスによる喪失感を和らげることができるかもしれません。
- 専門家のサポートを受ける:ペットロス症候群が深刻な場合は、カウンセリングや心理療法を受けることで、感情の整理や対処方法を学ぶことができます。
大切なペットを失った喪失感は、人それぞれに異なりますので、自分に合った方法を見つけることが大切です。時間をかけて心の癒しに向き合うことで、徐々にペットロス症候群を克服していくことができるでしょう。
また、ペットロスちゃんねるがペットロスを解消した人151人を対象に行ったアンケートの集計結果によると、ペットロス解消のきっかけになった出来事で多かった順に「新しいペットを飼った」が23%、「時間が回復させてくれた」が9%、「お葬式や埋葬・供養などをした」が7%、「動画や写真を見た」が4%、「家族や友人と話した」が3%などとなっています。
さらに、soraeで2023年1月5日~1月6日に実施したインターネットアンケートでは、ペットロスを乗り越えた方法について、「写真や思い出の品を飾る」の回答が32.2%、「家族でペットについて語り合う」32.0%、「後悔のない葬儀を行う」29.7%、「新しいペットを飼う」19.2%、「遺品を整理する」13.6%となりました。関連コラム
ペットロスでは、悲哀や拒否などのネガディブな感情がクローズアップされることが多くなりがちですが、一方では感謝の気持ちが生まれたり、良い思い出や経験として記憶のなかに残り、人間として成長をさせてくれるポジティブな面も大いにあります。ですので、ペットとの別れを悪いものと決めつけずに、前向きに受け止めることができるような心構えや準備などができるようにしたいものですね。
参考文献
・北海道大学大学院医学研究科医療システム学分野 木村祐哉 ペットロスに伴う悲嘆反応とその支援のあり方